遮光

 最近隣家の窓に段ボールが貼られている。原因は多分私だ。夜、私の部屋の灯りが漏れて、隣家の(恐らくは寝室の)窓に届いてしまっているらしい。確かに夜中まで本を読んだり映画を見たり、あまつさえ電気を煌々と付けたまま朝まで寝てしまうこともよくあるので申し訳ないと感じていた。隣家もとうとう我慢が出来なくなったのだろう。

 ここまで書くと100%私に非がある様に聞こえるかも知れない。でもちょっと待ってほしい、話はそれほど単純ではない。そうです、隣の家の寝室にはそもそもカーテンが付いていないのです。

 カーテンがない?上京したての大学生か?眩しいなら何故付けない?寝室以外にはちゃんと付いているではないか。うちは付けているぞ。窓に段ボールを貼る行為が隣家にどういう感情を与えるかわかっているか?そりゃこっちも悪いけどさ、、、と言いたいことは山ほどある。しかし風神雷神がプリントされた和柄パーカ姿の隣人と鉢合わせると「おはようございます」しか出てこない。悔しい。悔しいのでたまにベランダの目立つ所へボクシンググローブを干している。効果があるのかは分からない。

 結局、妻と相談し私の部屋に遮光カーテンを追加で取り付ける事にした。出費は痛いがこれで解決だ。グローブを干すより何万倍も効果があるだろう。しかしどうにも腑に落ちない。隣家のプレッシャーに負けた気がするのだ。物理的な解決は往々にして心情の解決にはならない。

 そんな事を考えながら悶々と日々を過ごしていると数日して隣家に変化があった。なんと窓にブラインドが取り付けられたのだ。やればできるじゃないか。これからは私も寝る前に必ず電気を消しますね。これでお互いフェアですね。私の溜飲も下がります。

 段ボールは数日で復活した。どうやらブラインドでは遮光し切れなかった様だ。そもそもブラインドの隙間は遮光に不向きな事に気がつかなかったのか?何故カーテンじゃ無くてわざわざブラインドを選ぶのか。あなたに必要なのはブラインドの様な変化球じゃない、直球だ。遮光カーテンだ。

 今日とうとう我が家の方に遮光カーテンが取り付けられた。しかし新しい家具に対するピュアな高揚はない。ただただ隣家の段ボールがどうなるのか、おずおずと剥がすのか、ブラインドに戻るのか、想像を超えた何かを出してくるのか、下劣な妄想が私を支配している。

 隣人よ恐れ慄くが良い、遮光一級カーテンの実力に。