前略、橋の上より

「ぶっちゃけ、ノリで来たんで」
その言葉が身に染みる日が来るとは思わなかった。後藤明生ブームに乗って、小説「挾み撃ち」の舞台を巡るオリエンテーリングに申し込んでしまった。まだ読み終えてもいないのに。勧められたまま聴いたことのないアーティストのライブチケットを買ってしまった感覚。いやライブどころか数段飛ばしでファンクラブの集いに参戦しようとしている。お前ノリで来ただろ、そう思われても仕方ない。

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 当日。曇。スタート地点の草加松原団地跡に三々五々集まり、蕨、上野、亀戸、御茶ノ水を巡る。本は、参加の前日にようやく読み終えたものの、内容が頭に入っておらず、道中何度も読み返し、描写と風景を見比べた。団地、目抜き通り、映画館、赤線街、橋。半世紀近く前の小説にも関わらず舞台の面影は意外な程残っていた。見比べていると、現実が物語に回収されていく気がした。

 小説とは関係のない場所にも立ち寄った。蕨市立歴史民俗資料館、上野の聚楽、珈琲王城、亀戸の銭湯など。柄にもなくハッシュタグをつけてTwitterに投稿などした。最早観光である。
 あちこちと脱線したものの、何とか終了10分前にゴール地点の御茶ノ水橋に到着。深く息をして、小説に倣って橋の真ん中に一人で立つ。うん、あれ、おかしい。誰も居ない。10分前で一番乗りはないだろう。しばらく待っても誰も現れる気配がなく、橋の名前を確認したり、反対側に渡ったり、近くの交番を覗いたりした。おろおろと橋を大回りに一周して袂の駅前に戻ると、とうにオリエンテーリングを終えた参加者達が談笑しながら私の到着を待っていた。すれ違っていた。ハッシュタグを追ってくれた方から「お風呂、気持ちよかったですか?」と聞かれた。どうぞこのまま私を神田川に沈めてください。

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 誘われるまま近くの中華料理屋で打ち上げ。参加メンバーは錚々たるもので、主催の編集者、著者のご家族、劇作家、文筆家など。ノリで来た、ミーハーな下戸のサラリーマンの私は、恐らく浮いていた。軽やかに交わされる会話に挾まれ、私はテーブルの上のメニュー表に感情移入したり、店の置物に擬態した。

 「実はZINEを作りたいんです」なんて言えなかった。参加者はおしなべて優しく、主催の方も丁寧に話を割り振ってくれて、書く人読む人分け隔てなく終始笑いの絶えない打ち上げだった。多分「ZINEを作りたいんです」などといえば、皆親身にアドバイスをくれたと思う。正直に言うと、場違いな打ち上げに参加したのは、卑しくもそんな機会を狙っていた節もある。でも実際その場面になると、言えなかった。言ってしまうと、せっかく曖昧になっている書き手と読み手の境界線がはっきりしてしまう気がした。

 打ち上げが終わり、店から駅までの帰り道、並んで歩いた作家の方に
「いつか、何かしら書きたいと思っているんです」
「でも、納得いくものが書けなくて、書き散らしたGoogleドキュメントが山のようになってるんです」
と、阿呆のような告白をした。
「一度本を出しちゃえば、あとは意外とすんなりいくモンですよ」
「初めて同人誌を出すとき、うまく言葉にできなくて泣きながら書いてました」
暗くて顔は見えない。
 ところで一体私は今どこを歩いているのだろう。一人になったら迷子になってしまいそうだ。

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22/7/10(日)

 一日中両手から石鹸の香りがしていた。家にある石鹸は無香料なのに。いったいどこで拾った香りなのか夜になっても全く見当がつかなかった。

 朝、猫を病院に預けてから投票へ。投票所は家から5分の中学校の体育館で、行くたびに心の柔らかい場所をくすぐられる。檀上にあるえんじ色のカーテンとか、そのカーテンについた金色のフリルとか、館内に掲げられた校是とかにいちいち反応してしまう。投票を終え校庭を覗くとソフトテニス部が練習をしていた。

 帰りにスーパーで買い物。twitterで流れてきた激辛カレーが食べたくなってルーと玉ねぎと10%オフの鶏肉を買った。玉ねぎが前に買ったときから倍くらいの値段になっていて、取った手が一瞬止まった。

 

 昼前に家に戻り、カレーの仕込みをしながら課題。録音した模擬カウンセリングの文字起こし。相槌や沈黙もすべて記録するように言われている(沈黙は「沈黙(5秒)」の様な表記にする)ので結構な神経を使う。2分の文字起こしに30分くらいかかってしまった。起こすのは10分なので先は長い。昼ごはんは戸棚にあったセブンのドーナツと豆乳。

 

 午後からジムへ。体重が合う練習生が何名か居たので総当たりでライトスパー(本気で殴らない実戦)7ラウンド。相手の中にいつも細身のジーンズと胸がはだけた派手目のシャツで来る少し苦手な先輩がいた。ライトスパーなのに強めに当ててくるタイプで今日もガシガシ当ててきた。分かっていたのでしっかり防具を付けたし、少しこっちの手数も多めにした。スパー終わり、ちょっとヒートアップしたかなとビクついていたらその先輩に声をかけられて、的確かつ丁寧なアドバイスを貰って拍子抜けしてしまった。

「羽織君はね、サウスポーなんだから相手との足の位置をもっと気にしないとパンチ貰っちゃうよ。相手の左足の外側にポジション取れば相手も打ちづらいし自分のパンチも当たるよ。攻撃力はあるからさ、ねっ」

 ちなみにこの先輩は以前「iPhoneを探す」のことを、ずっと「iPhoneを探せ」と言っていた。今でも間違えたままなのだろうか。iPhoneを探してオロオロするウォーリー姿の先輩(雑念)。

 

 夕方猫を回収途中に本屋。一階のカフェでクロックムッシュと水出しコーヒーを頼む。クロックムッシュを初めて食べたのは15年くらい前、付き合っていた彼女と行った千葉の喫茶店で、4枚切りパンの厚みとほぼ同じ高さのホワイトソースが乗っていて、クロックムッシュよりグラタントーストの方がしっくりくる見た目と味だった。以降クロックムッシュはそういうものだと思い込んでいるのだけれど、未だに同じようなものは見かけていない。多分最初に食べたのが特殊だったんだろう。クロックムッシュを食べ終え、接客を終えた本屋の店長と少し話す。2週間前にパーマをかけて以降、パーマの人を意識して観察するようになり、街ですれ違う人を「ノンパーマ、ノンパーマ、パーマ、ノンパーマ、微妙」と振り分けていることを話した。ヒヨコ鑑定士ならぬパーマ鑑定士。振り分けられるノンパーマ。よく見ると店長もパーマだった。店長が振り分けられなくて良かった。

 お互いの考えを整理したりされたり(主に整理される側だけど)、自分や他人のツイートに関する感想を言ったり、最近買った眼鏡を貸してみたりと無邪気なやり取りをした。しっかりおすすめの本を紹介されてしっかり買った。

 この本屋でしか吐露できない感情がある。今まで一体私はこの感情をどこに打ち遣っていたのだろう。

 帰りに本屋がある商店街の写真を撮ってtwitterに上げようかと思ったけどやめた。なんか、こう、やり過ぎな気がする。

 

 猫回収。先週は白血球の数値が低く治療ができなかったけれど今回はできた。仕込んでおいたカレーはまだ少し水っぽかった。辛さは大丈夫。多分明日が味のピークかも知れない。カレーを食べ終えると、朝ベッドの中で注文した本がもう届いた。そんなに急がなくていいのに。

 

 【今日の買い物】

 岸波龍 編「読書のおとも」、宮地尚子「トラウマ」(本屋)。

 木村敏「異常の構造」、M・スコット・ペック「平気でうそをつく人たち」(Amazon)

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22/7/1(金)

 仕事量が手に余ってきた。急ぎのものだけ片づけ19:30に退勤。明日の講義の課題がなければもっと残りたかった。帰りに昨日注文した眼鏡を受け取り、嬉しくてかけたまま店を出る。昨日買おうと思っていたTシャツは合うサイズの在庫がなかった。他の色や違うデザインでもいいから今買えるものがないか探していたところで、ストレスを浪費で昇華しようとしいる事に気づく。帰路へ。

 

 帰って何かを作る余裕がなかったので松屋でシーフードカレー。毎月いろんなカレーが出ているけれど、どれも完全に松屋のカレーの味になっている。21:30帰宅。掃除洗濯からの課題。

 

 仕事、課題、日記、運動。いろんなものが中途半端になっていて、漠然とした不安がある。

 

今日の買い物。rim(of jins)のメガネ18,700円

 

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22/6/30(木)

 仕事。同僚が帯状疱疹になりしばらく休むことになった。仕事が振られ、月末月初と第一クオーターの対応も重なり堰を切ったように忙しさが増す。現実逃避するように昼休みにオフィスを抜け、前から気になっていたモンベルマイクロファイバーハンドタオルを買う。2枚。当てつけの様な買い物をしてしまった。

 

 仕事帰りに駅ビルへ。元々Tシャツを買うつもりだったが、なぜか隣にある眼鏡店で眼鏡を新調した。縁が細くて大きな眼鏡。閉店間際だったので受け取るのは明日。パーマをあてて以降、少しだけ自由になった気がして、今まで遠慮していた服やアクセサリーが気になり始める。いつの頃からか身につけるものを「威圧的にならない」「嫌味にならない」という消極的な選び方をしていた。もっと自由に着る服や髪型を選んでもいいはず、と思いつつも年齢考えろよとも考えてしまい、両者が脳内で取っ組み合いをしている。

 

今日の買い物。モンベルのマイクロタオル ハンド 638円×2枚。f:id:tubeworm37:20220702031123j:image

22/6/29(水)

 TOKYO No,1 SOULSETを聴いていた。「否応なしに」の歌詞の一節「何処へ行くの今、朝になると」という言葉の並びの異常性に今更気づく。ずいぶん長く聴いているのに。

 

 19時に仕事が終わり20時前に最寄りの駅に到着。家の近くの少し開けた道路に出ると西の空がまだ少し明るくて思わず写真を撮った。撮った後、自分が誰かに「ねえ見て、20時なのにまだこんなに明るいの」と写真を見せている姿を想像して、あとで削除するだろうなと直感した。

 

 コンビニで水を買いジムへ。同じくらいの体重の練習生と対人練習5ラウンド。練習相手は小学校の先生で、すでに通信簿を書き始めていることと、明日彼女にプロポーズをすることを教えてくれた。明日プロポーズを控えている男性にかけるべき適切な言葉が見つからず「おお!」とだけ間抜けに応えた。

 

 今日の買い物。長野県安曇野の天然水2000ml、105円

 

一枚でちゃんと見えるTシャツが欲しい。

 

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22/6/28(火)

 仕事の移動中ずっとTOKYO No,1 SOULSETを聴いていた。27年ぶりにセルフカバーされたJive my revolverは、当時のぞりぞりする様な感覚はなく聴いていると冷凍食品を食べている気分になった。

 自分の車で出張。朝、先週動かなくなった空気清浄機を車へ積んで、移動途中にある清掃センターで廃棄。夜、仕事帰りに家電量販店に寄ってSHARP製の新モデルを購入。20:30帰宅。夕飯はレトルトのカレーとTwitterでみたズッキーニの素焼き。洗濯物を干しながら妻にヒーターとサーキュレーターがついたダイソンの空気清浄機が格好良くて思わず買いそうになったと話すと「え?ヒーターもサーキュレーターもあるから買う必要ないじゃん」と返された。正論を言われてしまい思わず「人の話をすぐに主観でジャッジするのオジサンみたいだよ」と口答えしてしまった。「エアコンとサーキュレーターが実在する事のどこが主観なの?」と返され、このまま会話を続けるとけんかになってしまいそうだったので「この話やめ!」と無理矢理話題を変えた。他人と長年一緒に暮らすと、衝突しそうな話題や雰囲気に敏感になって、それを回避する技術が身につく。

今日の買い物。

SHARP空気清浄機KI-PS40。¥31,792。

夏服も買いたいので今週は出費が嵩む予定。

22/6/27(月)

 

 急ぎの仕事がなかったので早めに会社を上がった。帰りに去年買おうと思いつつ何となくためらっていた日傘を購入。日傘を差すことに抵抗がないわけではないけれど、抵抗なり拘りなり生活を限定する行動は意識してほぐしていかないと、年を重ねる毎に不可逆的に凝り固まってしまう気がして怖い。それにこの暑さだ、あれこれ言っている場合じゃない。

 自宅近くの皮膚科へ。最近頻繁に蕁麻疹が出るのは、花粉症用に耳鼻科で処方してもらっていたアレルギー薬をやめたのが原因らしく、2か月前に耳鼻科で処方してもらったものと同じ薬を皮膚科で処方してもらった。薬局で処方薬をもらい18:00帰宅。スーツのまま盛夏用の衣替えをする。トレーナーやら厚手のシャツやらをしまい、ノースリーブのシャツやらエアリズムやらを引っ張りだす。その勢いに乗じて、去年殆ど着なかった夏服をまとめ古着屋へ。査定を待つ間本屋で時間をつぶす。仕事用の本を探しているうちに普段寄り付かない「宗教・精神世界」の棚に迷い込んだ。「宇宙」「波動」「霊」「魂」などの言葉が並ぶ。周りに誰もいないことを確認しつつ、どれか一つを手に取ろうかと思ったけれど、どれを選んでいいのかわからず結局手に取らなかった。古着屋へ戻る。査定は予想より全然低くて、そのことを正直に伝えたら倍の値段にしてくれた。毎回この流れだ。

 家に戻って素麵。ミョウガとネギと頂きものの梅を薬味にした。食後に妻とストレンジャーシングス4を観る。タブクリア、エディマーフィ、talkingheads。絶妙なものを絶妙なタイミングで仕掛けてくる。観ながら「ストレンジャーシングス コラボ」で検索をした。多分来月あたりには何かしらコラボ品を買ってしまっている気がする。

 今日の買いもの。モンベルのサンブロックアンブレラ4,950円